10 | 2017/11 | 12

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Yeovil Town日記・43 

5月ノ弐


プレーオフ決勝の時が迫っていた。残すは1戦。天国か地獄か。
運命を分けるホイッスルが吹かれる――。





---------- キリトリ -----------

スタンドの一角に設けられた特別席に、ピッチへ熱視線を送る男がいた。しかし、その表情にはどこか寂しげなものが含まれている。昇格を懸けた、チームにとって一世一代の大舞台。そこに立てなかった自身への憤りや悔しさが、滲み出ていた。

もっとも、選手としては晩年を迎えつつある今、自らの技量が続々と加わる新顔達を押しのけてピッチに立てるレベルにないことは、認めざるを得ない事実だった。既に2シーズン近く、リザーブリーグが主戦場になっている。よくぞ放出されずに済んでいるものだと自嘲気味に思ってしまう。

暁監督の就任以来、チームは劇的な変化を遂げた。今や、「彼以前」の選手はほとんど残っていない。もちろん、だからと言って彼の豪腕ぶりを非難するつもりはなかった。プロの世界はそういうものだ。こうしてチームがプレミアシップ昇格を狙えるレベルまで達せたのは、間違いなく彼の手腕。感謝こそすれ、恨む理由などない。サポーター達も、きっとそう感じている。自分はここにいる限り、できることを必要な時にするだけだ。

ただ――。弟に比べて才器の乏しかった自分に、プロとして生きていく道を与えてくれたクラブのために、ここで恩返しをしたいという気持ちだけは、誰よりも持っていると自負していた。昇格の可能性が日に日に高まっていくのと同調するように、彼の中でその意志や想いは爆発的に膨らんだ。

そしてそれは、時にプレーの質そのものを限界以上に引き上げる。

リザーブリーグの終盤戦、彼は圧巻の存在感を示した。専門家を唸らせるプレーで高レイティングを連発。中盤の底でボールを奪い続け、チームメイトを鼓舞する姿は、全盛期を彷彿とさせるものがあった。

この活躍に導かれたチームは急速に順位を上げていき、ついにはリザーブリーグ優勝を成し遂げた。立役者となった彼のパフォーマンスは、レベルの差を差し引いても瞠目すべきものがあった。折しも、トップチームは主力のコンディション不良に悩まされていた。まるで彼の復活を予期し、待っていたかのような偶然。これほど効果的なデモンストレーションは無かった。また幸運なことに、暁空也という男もまた、その活躍を見落とすような人間では無かった。すぐさま、彼はトップチームへと引き上げられた。

しかし、獅子奮迅の働きを繰り返していた肉体には限界が迫っていた。自分自身、気付いていないわけではなかった。分かっていて、無視していたのだ。やってくるのは一世一代の大勝負。そのためなら、どんな無謀も犠牲も覚悟の上だった。

だが、残酷にも神は彼に微笑まなかった。トップチームへ合流した翌日の練習中、彼の右足は悲鳴を上げた。目の前が急速に暗転する。スローモーションのようにピッチへ倒れ込みながら、口からは言葉にならない呻きが溢れ出した。とても早期回復が見込めそうな怪我でないことは、誰の目にも明らかだった。彼の執念を知る全ての者が絶句する中、ぶつけ所の無い怨嗟はいつ終わるとも知れず、周囲の耳朶を強かに打った。


選手達の登場を待ちわびるスタンドの明滅と咆哮が、刻一刻と大きくなっていく。キックオフの時間が近付いていた。眼下では決戦に臨む選手達が最後の仕上げに入っている。普段通り、何一つ変わらないアップメニューだ。しかし、この後に待つ「意味」が、彼らから日常性を奪っていた。馴れているはずの動作でミスが出る。表情も、明らかに硬い。まるで仮面を被っているかのようだ。

一年間の努力が報われるか、水の泡と消えるか。この一発勝負の価値は殊更重い。ぎこちなさや負荷が、ありありと見て取れた。

自分があそこにいたら、どうだっただろうか――。

考えても仕方のないことだと解っていても、頭の中を空想が駆け巡る。自分だって普段通りにはいかないだろう。漠然とだがそんな気はする。この手の緊張感は、もはや強迫観念に近い。既に一度経験しているとはいえ、あれに慣れることなど想像も付かなかった。そんな人間は、きっと心臓に毛どころか髭まで生えているに違いない。弟のTerryは、よく「プレッシャーを感じるのが好きだ。あの独特の雰囲気は、集中力や感覚を研ぎ澄ませてくれるからね」などと語っているが、少なくとも、常人は身体のコントロールができない状態に陥る。ふわふわとピッチを漂っている間に時間だけが目の前を通過していき、気付いた頃には試合が終わっている。これは、決して誇張された比喩ではない。体験した人間だけに解る、リアルな感覚だ。

今日のスターティングメンバーには、そうした状況を味わったことのある人間が少ない。中堅~ベテランクラスの選手が要所を引き締めているものの、彼らとて、感じたことのない雰囲気に押し流されてしまうかもしれない。

もちろん、あの監督ならば上手く選手達をプレッシャーから解き放ってくれるのではないか――という予感もあるし、我ながら老婆心が過ぎる気もする。だが、ここでの戦い様は間違いなく今後のフットボーラー人生を左右する。スタンドでは、プレミアリーグをはじめ様々な国のスカウトが鋭い目を光らせている。このレベル、このプレッシャーの中で輝く選手であれば、彼らにとって十分に戦力になりうる。つまり、昇格を決めるにせよ、負けて残留の憂き目に遭うにせよ、自身の活躍いかんでは今より高いステージへステップアップすることもできるということだ。プレーオフは、格好の「展示会」と言えた。実際、ここ数日間は「幾つかの上位クラブから身分照会のあった選手がいる」などという記事が地元紙に踊っていた。

その雑音が、チームの歯車を微妙に狂わせる。不協和音の調べは、破滅への誘(いざな)い。BremenのClozeが良い例ではないか。Bayernへの移籍を頑なに要求した結果、チームは結束力を失い、みるみる失速していった。幸い、Yeovil Townにそうした気配は全く感じられなかったが、煩わしさを覚えているのは間違いない。「集中力を保てていればいいのだが…」と、願わずにはいられなかった。

両軍の選手達がアップを終えて引き上げていく。いよいよ、天国と地獄を分けるキックオフの時間が迫っていた。夕闇に侵食された空が、雲の間から薄白い光を放っている。5月の夜は、漆黒というよりは紺碧に近い。それでも19時近くになれば、肉眼でも星の明滅が確認できた。場内アナウンスによれば、今日の気温は29度もあるという。とても春先とは思えないほどに暑い。座っているだけで、じんわりと汗が滑り落ちていく。敵はBristol Cityだけではなさそうだ。長く苦しい戦いになることが容易に想像できた。

「ついにここまで来たね、兄貴のチーム。兄貴が怪我で出られないのは残念だけど、大丈夫、きっと勝ってくれるさ」

聞き慣れた声が、自分を兄と呼ぶ世界で唯一の人間の声が、いきなり背後から飛んできた。それはあまりに唐突で、振り返ろうとして椅子から転げ落ちそうになった。自分とよく似た顔の持ち主が、そこには立っていた。

「な、なんでこんなところにいるんだ?毎年、この時期はアメリカにバカンスへ旅立っているじゃないか」

彼の所属するChelseaは一足先にシーズンを終えてオフに入っている。普段であれば、家族を連れてアメリカに滞在している頃だ。それが何故、こんなところにいるのか。

「兄貴の所属チームが昇格を懸けて決戦に挑もうって時に、駆けつけないわけにはいかないよ。例え兄貴が出場しないにせよね。第一、来季は同じリーグで戦うことになるかもしれない。敵情視察はキャプテンとして当然の仕事だよ(笑)」

「当然だろ」という表情で、弟は笑っている。

「隣、いいかい?」

そう言うなり、どっかりと座った。隣り合ってのフットボール観戦なんて、いつ以来だろうか。弟も、同じように思い出していたらしい。

「子供の頃は、よく兄貴と一緒にスタジアムで喉を嗄らしたなぁ。なんか思い出しちゃったよ」

言って、手元のペットボトルをひねり、口に中身を流し込んだ。視線の先に、ピッチを捉えながら。

「いよいよだね」

視線は全く動かさないまま、彼は促す。言葉では答えずに、ただ深く頷いた。訪れる、寸尺の沈黙。それが、突如湧いた轟音にかき消された。22人と、運命を裁く3人のレフェリーが、姿を現したのだ。

プレミアシップの扉を叩けるのは、どちらか片方だけ。リーグ終了後、同じように一秒たりとも気の休まらない時間を過ごしてきた両者だが、タイムアップの後に待ち受ける運命は正反対。その無慈悲で暴力的な現実が、駆け付けた9万人に迫るフットボール狂の意識を異様に昂ぶらせる。方々から発せられる言葉からは、獣じみた匂いがした。解らなくない。自分自身にも、狂おしいほどに情熱が渦巻いている。甲高い笛の音が空に届くと同時に、理性の箍(たが)が外れるのを確認した――。

一進一退の展開から最初のゴールが生まれたのは23分だった。右CKにSt.Ledgerがニアで合わせてYeovilが先制点を挙げる。

1点を失ったBristol Cityだが、焦らずにゲームを進め、前半は均衡状態に近い1-0で折り返す。

ところが、後半早々の56分にその均衡状態は大きく傾く。Hibbertと競ったIan Evattが痛恨のオウンゴールを献上。この衝撃は、極限の緊張感を断ち切るのに十分過ぎる威力があった。

73分にFerraroが勝利を確定付ける3点目を奪えば、その2分後、Hibbertがプレミアシップでの活躍を期待させる4点目をゲット。

スタンドでは、早くも白と緑にくるまった人間達が凱歌を朗らかに唄い上げている。肩を組み、笑顔でリズムを刻み、足音は力強く。Bristol Cityのサポーター達は、これ以上残酷なショーを見ていられなかった。足取りも虚ろに1人、また1人と去っていく。やがて赤は全て駆逐され、スタジアムの色は白と緑のものになった。

主審のJack O’Brien氏は、90分になった瞬間、速やかに笛を鳴らした。彼にとって唯一できる、せめてもの情けだった。糸の切れた人形のように、Bristol Cityの選手達がバタバタと倒れていく。

もっとも、Paul Terryの瞳にその情景は映っていなかった。気付いた時には、隣の席から飛び上がった弟にのしかかられていたからだ。どうやら兄が怪我人だという情報はデリートされているらしい。

「やったな兄貴!やったな!!」

じんわりと、そして急速に、溜め込んできた感情がこみ上げてきた。

「ああ!ああ!!やったさ!!!」

涙やら何やら分からない水滴が、次から次へと頬から首を伝っていく。口からは、言語を形成しない音がゴーゴーと撒き散らされた。同じようにスタンドで観戦していた仲間達も、これまた同じように喚いている。

信じられなかった。実質3部リーグであるLeague Oneから、たったの4年でプレミアシップへ到達するとは。あの、どうしようもなく怪しげだった日本人監督は、今や魔法使いのように讃えられている。クラブハウスや練習場へ押し掛け、「何かの間違いだろ!」と罵声を浴びせていたサポーター達の姿が、遠い昔のように思えた。これも運命なのか。そんな考えが、ぐるぐると回っていた。

「兄貴、早く怪我を治せよ。来季、ピッチで再会するのを楽しみにしてるから。その時は、父さんや母さんを呼んでやろうぜ。もちろん、勝つのはChelseaだけどね」

ひとしきり共に喜んだ後、彼は悪戯っぽく微笑んでそう宣言してから、ぐっと右手を突き出した。

「何を偉そうに~。吠え面かくなよ!」

言ってから少し気恥ずかしくなったが、それを隠すようにして彼の手をがっしりと握り締める。ゴツゴツとした、歴戦の勇士の手だった。幾多の修羅場を潜り抜けてきた証。そこに、自分が手を引いていた頃の面影はない。

「じゃあ、俺は行くよ。兄貴はチームの仲間と過ごすもんな。お互い家庭もあるし、次に会う時はピッチの上になるかもね」

「そうだな。その日を楽しみにしてる」

もう一度しっかりと手に力を込めてから離した。嬉しそうにカツンカツンと音を立てて階段を上る弟の背中が、やたらと大きく見えた。あんなにも、大きかったのか。倒すべき相手と認識した時に初めて知る実像。来季、自分はあの〝男〟に勝てるのだろうか。弟であり、世界最高峰のDFに――。

インタビュアーが監督の感極まった声を伝えている。身ぐるみをすっかり剥がされた選手達の裸身を追ってテレビカメラが忙し気に旋回する。自らも歓喜の輪へと踊り込みながら、弟の姿を思い返していた。

playoff-Final.jpg


---------- キリトリ -----------

今回は、いつものような監督視点ではなく、「主人公から見たプレーオフ決勝」という体裁を採ってみました。いかがだったでしょうか。

安易に書き始めたYeovil Town日記もいよいよ5シーズン目に突入しようとしています。今の戦力値では断然の降格候補であるYeovil Townは、来季奇跡の残留を成し遂げられるのか。そしてChelseaとの対戦は。自分自身楽しみにしています。

裏側を明かすと、最後にYeovil Townでプレーしてから数カ月が経っています。この「昇格」を公開するまでは何となく寝かせておきたかったので。

つまり、もう貯金はありません。

これから、「昇格で選手の給料が上がり、給与枠を超えてしまった!どうしよう!!」とか、「どれだけ来季の予算はもらえるのか」、「昇格が決まって来てくれる選手も増えたか?」とかワクワクしながらゲームを進めていこうと思います。その前に09/10シーズンのデータや各種表彰についても書かないといけませんね。

次回の更新は、その辺りからになりそうです。

私の日記に期待してくれる物好きな方々、またお会い致しましょう!
(*^ー゚)/~~


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コメント

昇格おめでとうございます!

文章の書き方がいつもと違うので、もしかしたら・・・。と思ってたんですが、
ついに昇格ですね!
シュート3本で4ゴールって凄くないですかw

しかし、テリー兄はせっかくのチャンスを怪我でフイにしてしまったんですね。
なんという不運。
しかし、これで弟との対決が実現するわけですな!

なんとまぁドラマティックな展開ですなぁ、兄貴の怪我を含めて;

ゲーム内の1つの試合をここまで感動的に仕上げる文才に脱帽です。

テリー(弟)が気づいたらChelseaにいない、イングランドにいない
なんていうやっちまった的展開を期待してたんですがw


なんでもないです; 昇格おめでとうございます。

もはや日記でわなく物語…

昇格おめでとうございますm(_ _)m
直接対決の描写も楽しみにしております!

物語化はリスクがつきもの

>すろう様

ありがとうございます。
(゚Д゚)ノ

いい加減、かなり描写に疲れてきたのですがw、なんとかラストスパート頑張ります!!

相変わらず毒舌www

>Lたん

どうもどうもどうも!
(゚Д゚)ノ

さすがは若さに似合わぬあくどさを持つLたん、そんな考えは抱いたこともなかったよ。
(;・∀・)

でも、テリーはちゃんとチェルシーにいるから安心。「文才を発揮した」ってほどつくり込んだ文章じゃないけど、褒めてくれてありがとう。やっぱり嬉しいものだからね。

Lたんのサンダーランドにも期待してます♪

よく気付きましたねw

>どらぐら様

私も驚いてしまいましたw
(;^ω^)

決定率100%なんて、滅多にないですもんね。そう考えると、運に恵まれたのかなと。

そしてご指摘の通り、文章が明らかに長い時は吉報の証でございます。いつもコメント感謝。

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