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04 | 2021/05 | 06

Yeovil Town外伝~華麗なる君へ、ラストダンスの舞台を㊤~ 

Yeovil Townに舞い降りた1人の英雄。

彼は何故、20世紀最高のクラブにも選ばれたメガクラブを離れて英国の片田舎へ足を踏み入れたのか。

愛するモノとの決別を選んだのか。

「奇跡」とさえ評された驚嘆すべき移籍劇の裏には、幾つもの物語があった。

〝赤い糸〟が導かれ、結ばれる様を、ここに記そう。

200px-Guti.jpg



---------- キリトリ -----------

えーっと…筆者、仕事が忙しい上にプライベートでも時間があまりなく、宣言していたものの全然進んでいませんでした。
(;・∀・)

あまり遅くなってしまっても価値がなくなってしまうため、とりあえず3分割にして序盤だけ公開することにしました。この後、ややモチベーションが低下して内容は圧縮かつ省れていきますが、なるべく早めに中、下と完成させたいと思っていますので、読みたいという奇特な方は気長に待っていて下さい。

なお、個人的な満足度は30%くらいでしょうか。じっくりと腰を据えて書く時間があれば、クオリティも高まるのですがねぇ。。。

まだまだ物書きとしての独り立ちには時間がかかりそうです。
┐(´ー`)┌





プロローグ

無数のフラッシュが室内の光度を急速に高めていた。

過去に例のない黒山の人だかりが小規模な空間を圧縮し、自然発生した喧騒が渦を巻き跋扈している。

普段は沈着冷静な広報担当が大声を張り上げて辺りの鎮静化を図っているが、どうやらその効果は皆無のようだ。

この光景を想像していなかったわけではない。しかし、英国の片田舎のクラブには分不相応な数の記者やテレビクルーが参集してくる様は、やはり異様に感じられた。

人の往来はひきもきらず、普段はだだっ広いだけが取り柄のホールは既に床の色さえ見えないくらいに埋まっているが、まだ密度は高まり続けるようだ。興味本位で人数を指折り数え始めてみたものの、直ぐにそれが無謀だということに気付き、止めた。

「どんだけ~?!」。

祖国を旅立った後に流行ったという言葉が、図らずも口をついた。なるほど、こんな時にも使える非常に便利なワードだ。しかし、全てにおいて消化速度の速い日本では、それまでの流行語と同じく、1年と保たずに廃れて逝ったらしい。その言葉を、今頃になって英国で使っている人間がいる。時差にすればたったの7時間程度の距離に過ぎないというのに、不思議だ。考えてみると、面白い。

「そろそろ会見のお時間です」

くだらない妄想から現実に引き戻したのはアシスタントマネージャーの声だった。

そうだった。彼の一言から、この壮大な移籍劇は始まったのだ。

急速度で目の前の映像が旋回し、数カ月前の情景がフラッシュバックしはじめた。


第1章 騒然

「まさか──」

思わず耳を疑ってしまった。契約延長が難航しているらしいことは報道で知っていた。しかし、「彼」はデビューから一貫してチームへの愛を貫いてきた男だ。出番の有無に関わらず、たとえレンタル移籍で放出されようと。今の放浪の旅はいずれ終わり、クラブに還るのだという確信すらあった。だからこそ、「また飛ばし記事か」と一笑に付していた。

「信頼できる筋からの確かな情報です」

しかし、アシスタントマネージャーは繰り返した。そのお目当ての人物の代理人とは古くからの知人であり、受け入れ先を探していることを密かに匂わせたと言う。

「実際、契約延長が合意に至った気配はありませんし、それどころか『クラブ側は交渉を打ち切る構えだ』と、現地ではまことしやかに囁かれています」

興奮気味にまくしたてるアシスタントマネージャーに、「それが事実だとしても、飛び付く先は幾らでもあるはずだ。自虐的な話になるが、うちのようなスモールクラブに彼が来るメリットはない。そもそも、うちには彼ほどの高給取りを雇う財力がない。まさしく高嶺の花ってヤツだろう」と、率直な感想を口にする。

「いや、それがそうでもなさそうなんです。33歳という年齢から来る衰えは本人が1番感じています。ここ3シーズン戦力外扱いされていたこともあり、今は残り少ないフットボーラーとしての人生を新しい挑戦に費やしたいと考えているようです。そして、失われた自らの〝黄金時間〟を取り戻したいという欲求が、今は何より強いとのことです」

「国外のクラブであり、トップクラブへの成り上がりを目指す野心的なクラブでもある我々ならば、お眼鏡に叶う可能性があると?」

「ええ。少なくとも代理人を務める〝ヤツ〟の態度はそう語っているようでした」

「分かった。君の言葉と友人を信じよう。無為に終わるかもしれないが、リサーチも含めて彼の動きは常に把握しておいてくれ。くれぐれも慎重にな。ビッグクラブにあらゆる面で太刀打ちできない以上、嗅ぎ付けられたら手を引くしかないのだから」。

生き馬の目を射抜くような、虚々実々の計略が張り巡らされる移籍市場。資金や魅力で劣るスモールクラブは、細やかな情報や〝ツテ〟に活路を見出し、広範な情報網の目を縫って出し抜かなければならない。その労力なくしては、理想の補強など夢のまた夢だ。

実現性がどうあれ、滅多にない大チャンスを、指を加えて見逃すつもりはさらさらなかった。

彼にしても、不遇を囲い、心休まることのない煩わしい状況に悩まされている間に、「どこか新しい土地でリフレッシュしたい。キャリアを再生させたい」と思い始めているのではないか。可能性はある。

それにしても──。

アシスタントマネージャーが退室するのを見届けてから、手元の資料に目を移す。

金色の髪をなびかせて、ピッチを躍動する男の姿がある。

彼の名はJosé María Gutiérrez Hernández。通称Guti。

ボールコントロールは優雅で華麗。ひと度ボールを持てば緑の芝目をなぞるかのように、軽やかなステップを刻む。ボランチからトップまでこなす戦術的柔軟性も、授けられし才の大きさを物語っている。極上のテクニックと見目麗しい容姿から、「白き巨人の王子」ともてはやされた時代も在った。

そして、その美しき様の裏に秘められた、相手を奈落に引きずり込む冷酷さと凶悪さ。

スルーパスは一撃で獲物を仕留め、そのシュートは正確に急所だけを射抜く。天使の顔に悪魔の力を宿す――そんな比喩の似合う男だ。

しかし、元来のキレやすい性格が災いしたか、年輪を重ねても一向にパフォーマンスが安定しない。ある試合で〝将軍〟Zidaneをも上回る輝きを見せたと思えば、次の試合では凡庸な――それこそBチームの選手のような――プレーに終始してしまう。

もちろん、全ての責任が彼自身にあるわけではない。ユーティリティ性が仇となり、監督が代わる度に様々なポジションをたらいまわしにされた。当時のクラブ会長ペレスが採った「銀河系集団化戦略」の煽りを受け、きら星の如きトッププレイヤーとの競争を余儀なくされもした。いかに有能なプレイヤーであっても、「安住の地」なくして真価を発揮することは難しい。自らの信念や誇りは出場機会のために覆い隠し、要求を満たすことだけに心血を注ぐ。その過程で、描かれるはずだった未来図に歪(ひず)みが生まれたとして、いったい誰が彼を責められようか。

この不運こそが、何より稀有なる才能を蝕んでいったのかもしれない。

やがて悲劇は起こる。

06/07シーズン、彼は初めて自らの存在価値を認めない指揮官に遭遇した。偉大なる厳父、〝Don Fabio〟ことFabio CAPELLOである。失地回復の切り札として迎えられたCAPPEROは、ムラッ気のある彼を容赦なく干した。出番は怪我人の穴埋めやプライオリティーの低いコンペティションに限られ、その数たったの15試合。公式記録に記された06/07シーズンの〝足跡〟は、過去最低となる僅か1アシストであり、1度たりともネットを揺らすことできなかった。

この体たらくに、クラブはついに彼を見捨てた。4季連続で優勝を逃した首脳陣が、「戦犯の粛清」によって体面を保とうとしたためだ。残念ながら、彼は槍玉に挙げるには都合の良い立場、そして成績だった。

激闘を終えた面々が次々とヴァカンスに飛び立つ中、未だマドリッドに残る彼をいぶかしみ、周囲がいよいよざわつき始めた頃、クラブは彼が英・プレミアリーグCharltonへレンタル移籍することを発表した。

燦々と太陽が照りつける、暑い日だった。

いつもならば、「彼もまたキャプテン・Raulと同じMadridの魂だ」と徹底抗戦に打って出るファンも、今回ばかりは沈黙を余儀なくされていた。強調できるモノは何もない。弁護すべき舌はカラカラに乾ききっていた。それぐらい、彼は精彩を欠いたままシーズンを終えていた。それこそ、レンタル移籍が「温情」と思えるほどに。

脳裏に、たまたまニュースで見かけた移籍会見と、その時の彼の表情が目に浮かぶ。さすがに複雑さを隠せずにいたものの、レンタル移籍という「追試」で済んだことには多少なりとも安堵感したのだろう。美しい顔を暗く塗りつぶしていた苦悩やら悲哀やらが、幾分取り除かれているように見えた。会見を終えて退席する際の表情に、漲(みなぎ)る決意が宿っていたのを忘れられない。

もっとも、彼の立場からすれば新天地での再起こそが愛しきクラブを振り向かせる唯一無二の手段だった。それだけが残された活路なのだとすれば、拒む理由などない。

意気揚々と、フットボールの母国へと舞い降りた。

しかし、気持ちとは裏腹に身体は動かない。フィジカル的に最もハードとされるリーグで、30歳を超えた肉体は悲鳴を上げた。

07/08シーズン、英国で残した記録は30試合出場4アシスト、無得点。ロンドンの灰色の空は容赦なく彼から輝きを奪っていった。

かつてArsenalのReyesにもそうしたように。

救いだったのは、多くの評論家や監督達が「英国の水が合わなかっただけだ」と主張してくれたことだ。2シーズンの迷走ごときで信頼が失墜するほど、まだGutiという存在はうらぶれていなかった。悪夢を終えて母国に帰還した彼の元には、多くのクラブからオファーが寄せられていた。

「最後のチャンスだと思っている」

悲壮な覚悟と共に、彼が選択した行き先はBetisだった。同じくアンダルシア州セヴィージャを本拠地とするSevillaの躍進を、歯噛みして眺めていた「ベティコ」――ベティスに生涯を捧げる人々のこと。セヴィージャに生まれた人間は必ず緑か赤に〝所属〟し、死ぬまで袂を分かち続けるという――の救世主として、彼は盛大に迎えられた。「これで2部降格の恐怖ともおさらばだ!」。「Sevillaなんて目じゃねぇぞ!!」嬉々として嬌声を上げるベティコ達はこの時、その〝救世主様〟がたったの1度しか姿を現さないとは露ほども思ってなかったに違いない。

そう、彼が緑と白のユニフォームを着たのは、未だ1試合だけだった。別に大怪我を患ったわけではない。立ちはだかったのは、またもや監督という名の牢獄だった。「32歳のロートルに、ましてや他のクラブから来た助っ人にポジションを与えるつもりはさらさらない」とでも言わんばかりに、彼を冷たく暗い檻の中へ押し込んだ。そして運の悪いことに、彼のいないチームは久しぶりの好調子を謳歌していた。

定位置はスタンド。練習場と家とを行き来するだけの日々が延々と続いた。絶望が巣食い、笑顔は消えていく。煉獄の苦しみから解放してくれる、オファーという名の「蜘蛛の糸」も、シーズン途中という足枷もあってか垂れてきそうになかった。

彼の近辺はにわかに騒がしくなっていた。2シーズンに亘る〝追試〟が無残な結果に終わろうとしている今、クラブ側は契約延長に慎重な姿勢を示さざるを得ない。たとえ、功労者への〝値踏み〟と躊躇が彼の反感を買おうとも、戦えない者を置いておけるほどのお人よしではないのだ。

「Real Madidにとって彼は既に過去の遺物だ。あれから指揮を執り続けているCAPPEROとしても、やっとこ解体した忌まわしき銀河系の残滓が手元に戻ってくるなんて真っ平ごめんのはずだ。となれば、やはり放出か…」

独りごちて資料を閉じた。まもなく練習の時間だ。チームは奇跡的にプレーオフを狙える位置をキープしている。彼のことに没頭する暇があればチームのために使うべきだ。今は彼が加わるに相応しい土壌をつくり上げることに傾注するのが先決。あとは、とにかく続報を待つしかないのだから。

続く
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