07 | 2017/08 | 09

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

第74回東京優駿~父から娘へ 刺激的な勝利の美酒~ 

2007年5月27日に東京2400メートルを制することは、2004年に生を受けた8470頭の頂点に立つことと同義だ。

数えて73回。綿々と継(つ)ながる戦国絵巻は、この日74回目を連ねようとしていた。

新たな一幕に名を刻むべく、たどり着いた18頭の歴戦の雄。誇り高き伊達男達の、熾烈で過酷な生存競争は、ついにクライマックスを迎える。人と馬とが織り成す社会は、「東京優駿」という「生命の価値すら捧げた覇権争い」を中心に巡っていくのだ。

その〝男臭い〟戦場に、ひときわ輝く美しき紅一点在り。一週前の女王決定戦に目もくれず、彼女は性別を超えた頂点を目指し、ここへやって来た。

肉食獣から身を守るため、性別関わらず逃走の生を甘受せねばならぬ運命にある馬という生き物は、男女間の身体能力差が比較的少ない。実際、瞬発力勝負で決着することの多い短距離レースでは、牝馬の勝利も珍しくない。しかし、往々にして3歳を数える頃から、スタミナや底力の問われる中長距離では徐々に性差が埋めづらくなってくる。事実、牝馬のダービー参戦は、同じ2歳女王が挑んだ10年前へ遡らなければならなかった。今回の挑戦に対し、「無謀だ」と冷ややかな視線を向けるヒトがいたのも当然と言えた。

それでも、彼女にはトップ騎手である四位洋文をして「牝馬とは思っていない。牡馬に伍して勝てる実力が十二分にある」と言わしむる実力と自信があった。ましてや、圧倒的な人気に応えられず、桜と共に散った4月の借りを返すには、これほど痛快な舞台は無かった。

だからこそ、出走に踏み切った。


5月には似つかわしくない夏の陽射しと、12万に達する人いきれが吐き出す熱気とが混じり合い、パドックは異様な雰囲気を醸し出していた。ダービーデー特有の緊張感が、そこに張りを加える。選ばれし18頭と彼・彼女に関わる人々はそれぞれにめかしこみ、生涯一度の晴れ舞台を謳歌している。

中でも彼女の〝出来栄え〟は目を引いた。18分の1の女性だからという好奇の目からでなく、スタッフの想いの丈が伝わる乾坤一擲の仕上げだった。ゆるりと歩く、その煌びやかな体躯はあまりに眩しく、17頭の武骨な男を従える女王のように見えた。

彼女の名はウオッカ。名は02年のダービー馬であり、父タニノギムレットに由来する。父と娘、2人の生みの親にして名付け親の谷水雄三オーナーは、「(ジンにライム果汁を混ぜたギムレットに対し)ウオッカはより強い酒だから。(普段持ち馬に付ける冠名の)タニノを彼女に付けなかったのは、ストレートの方が強いから」と、洒落っ気たっぷりに笑う。

宿命か、運命か――。黄色地に水色襷が、よく映えていた。

パドックの周回を終え、地下通路を潜り抜けると、いよいよ決戦の地へと至る。

降り注ぐ24万超の視線と歓声。

国歌高らかに、ファンファーレ厳かに響き渡り、18頭は等しく割り当てられた18の扉の前へ歩を進める。だが、先に栄華が待つのは1つだけだ。勝利の女神はいつだってOnly Oneを求めている。

溢れ出る生命力は発走を待ちわびる衆目の鼓動を掻き鳴らし、轟々と暴力的な叫びが中空に伝播する。

やがて、スタート前に訪れる寸暇の静寂。

歴史への反逆が、幕を明ける――。

スタート直後こそ多少気の悪いところを見せた彼女だが、1コーナーを回るころにはすんなりと折り合い、中団を軽やかに、颯爽と進む。ヴィクトリーが立ち遅れ、サンツェッペリンも控えたため、レースは押し出された格好でアサクサキングスが引っ張っていた。先頭から最後方までは約20馬身。縦長の展開となった。

1000メートル通過は約1分。向こう正面をゆったりと踏破していく集団に、有力馬の姿が見えてくる。スタートで後手を踏んだヴィクトリーは4番手までポジションを上げ、断然人気のフサイチホウオーはローレルゲレイロと5番手で並ぶ。フサイチホウオーを目標にする形でアドマイヤオーラがつけ、さらにアドマイヤオーラの真後ろに彼女は位置した。他の上位人気馬は、後方に待機している。

大欅を巻いて一気に加速した各馬が、頂(いただき)へと伸びる525.9メートルの直線コースに雪崩れ込んでいく。

「いつ外へ出そうか考えていた」

鞍上の四位騎手は冷静にパートナーを御しながら、〝機〟を見極めていた。ところが、幸運にも目の前がぽっかりと空いた。

瞬間、彼と彼女は躊躇せずに突っ込んだ。

「ちょっと早過ぎる」

谷水オーナーの抱いた不安は、直ぐに杞憂であることが証明される。

矢尽き刀折れ、名うての名将達が伏していく中、四股をしっかりと緑の大地へ踏み立て、彼女はド真ん中をぶち抜いた。

栄光へのvictory road

祝福へのwinding road

1馬身、2馬身、3馬身

衰えを知らぬ力強い足取りに、後続があっという間に視界から遠ざかる。

緑滴る府中の杜に刻まれた、2分24秒5の平成女傑伝説。

64年ぶりの美酒に、皇太子が、内閣総理大臣が酔いしれる。

しかし、酩酊するのはまだ早い。

平成の天馬敗れしフランスで、いざリベンジ。

酔いつぶれるのは、その刻でいい──。
スポンサーサイト

コメント

素晴らしい文ですね!

昨日の感動を、しみじみと感じさせてくれる名文ばかりです。

本当にあの瞬間を生で見れて幸せです。

-歴史への反逆-と書かれているように

見事なレースでした。

お褒め頂きありがとうございます

最近は競馬熱が近年にないくらい下降していたのですが、久しぶりに熱くなりました。惰性で毎週観ているだけでしたからね(苦笑)。

ちなみに、たま~に過去の名馬達を詩にしたりもしていますw

ウオッカのレースは感動しました
あのど真ん中をぶち破って進んでいく姿は本当に凄かった
残念なのはヴィクトリーが一切絡まなかったという点でしょうか・・・

コメント多謝

ヴィクトリーは完全にちぐはぐなレースになってしまいましたからねぇ。。。やはり気性的にまだまだ完成度が低いのかもしれません。

ウオッカには夢を見せてもらえそうです。優秀な角居さんがどこまで彼女を伸ばしていけるのか、楽しみですね。

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://guilty4betrayer.blog6.fc2.com/tb.php/658-950d8a19

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。