09 | 2017/10 | 11

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Good-bye,「A young nobleman」 

その青年は、梳けば星がこぼれそうな金髪を汗に濡らし、西欧彫刻の傑作を思わせる端正なマスクに瑞々しい闘志を張り付けて、ピッチを駆け巡っていた。

ハーフライン辺りでボールを受ける。ゴールまでの距離は60メートルほど。視野の端でGKが無防備な姿を晒していた。

瞬間、今も変わらぬゆったりとした独特のフォームから、輝き始めたばかりの右足で白球をすくう。

鷹が飛び立つ瞬間──。彼のフォームは、ゆったりと翼を広げ、力強く大地を蹴って獲物を狩りに往く猛禽類のそれと似ている。緩慢ではなく雄大。慎重とは違う余裕。備わる気品。

空を舞ったボールは一直線に「狩るべき」ゴールへ向かい、慌てて背走する番人を悠々とやり過ごし、仕事を終えた。

彼のGolden Timeは、ここが原点だ。

以後、「赤い悪魔」と呼ばれる英国屈指の名門の右サイドは彼の領域になった。正確無比なクロスは得点を艶やかに演出し、硬軟変化自在のFKで自らもハンターと化す。背中には「象徴の証」が踊り、世界中のファンは「王子」と愛でた。

もちろん、挫折もあった。世界中が注視する檜舞台で、まさかの愚行。帰国した彼には、長く長くブーイングの雨が降り注いだ。

しかし、彼は何も言い返さず、ただひたすら、身体と心を戦場へ没頭させた。

その姿が、彼を真の統率者へ磨き上げる。

数々の栄冠を手繰り寄せ、英国の先導者として因縁に決着もつけた。

「ポップスター」としての表情を忘れさせてくれる、プレイヤーとしての絶頂期。

終わりが訪れたのは突然だった。

見出し、育ててくれた恩師との決別。そしてそれは、そのままトッププレイヤーからの「決別」も示唆していた。

世界一の人気者が世界一の人気クラブへ。

華々しいのは字面だけだ。持ち味の生かせない不慣れなポジションを与えられ、苦闘し、非難される。スタメン出場の回数は片手で収まった。

所詮、「白い巨人」での彼は「打ち出の小槌」以上の何者でもない。テレビで、スクリーンで、異国でのみ輝きを放つ「宝石」。

驚くほど謙虚で、勤勉で、人格者で、フットボールを愛している彼の真実は、そこに無い。

苦悩──。

いつからだろう、彼の表情からは笑顔が奪われ、代わりにカゲが深く刻まれた。

もはや離別を決断せざるを得なかった。

5年300億円で米国LAギャラクシーへ移籍。

彼は今、大金を得ると同時に、プライドと至高の舞台を捨てる。

懊悩の果てに見出した結論は、彼をフットボーラーたらしめていた最後の一葉を飛散させてしまった。

メディアへの露出が増える一方で、右足は着実に錆びていく。

プレーの数々は記憶と共に倉庫へと運ばれる。

31歳での離別――。

祖国の空は暗さを増し、喪章の様に黒い雲を吐き出した。
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