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05 | 2019/06 | 07

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【競馬】8年越しの夢を、キミと共に~第1回ヴィクトリアマイル回顧~ 

3戦3勝。いずれも圧倒的な内容だった。均整のとれた体躯と気品溢れる美顔は、良家の「お嬢様」たる証だろうか。名中長距離ランナーのエアダブリン、世界を、牡馬を脅かした女王ダンスパートナー、菊一文字の切れ味ダンスインザダーク…当代きっての偉大なる兄姉の系譜息づく、珠玉の才媛。

桜吹く阪神の馬場を最高の騎手にして最上のダンサーと軽やかに駆け、無敗で「過去最速の女王」へと上り詰めた2004。「どれほど強くなるのか」眩しさに仰ぎ見た。しかし、樫の舞台で初めての挫折。秋の京都、再び彼女は悶え苦しんだ。

ひとつ年齢を重ねた彼女が再び姿を現したのは雨の抜けきらない曇天の府中だった。天皇賞(秋)、初めての古馬一線級との邂逅、13番人気。新パートナーにはフランスの伊達男、クリストフ・ルメールが選ばれていた。

心機一転――。

彼のリードにまさしく「馬が合った」か、パワフルにかつ情熱的な至極のダンスを披露して、鮮やかに2着へ飛び込んだ。そして続くマイルCS、彼と彼女のステップは最強の名刀をも脅かした。

円熟、そして飛躍の時。苦労知らず、世間知らずの箱入り娘が、世間の荒波に一度は打ちひしがれながら、心を鍛え、甘えを捨てて立ち上がり大きく成長する…。サクセスストーリーの定番だ。

誰もが信じた夢は、翌春悪夢に姿を変える。

京王杯SC、安田記念と無残な大敗。

必死に立ち直りを図った夏。目を覆う2度の惨敗。

昨秋の想い出に縋(すが)った府中の杜、府中牝馬S。らしくなく後方をとぼとぼと追走し、精気無くゴール板を8番目に通過した。

「もう、ダメか」

牝馬ならありえることだ。幾多の名馬達が、加齢によって走る心を奪われてきた。

ところが、泥まみれになり、プライドをズタズタにされてなお、彼女の芯は強かった。崩れなかった。

童顔の「あかぬけない」騎手と共に、手を取り合いスポットライトの射す方へ。

天皇賞(秋)、3着。マイルCS、4着。レースを引っ張る姿は力強く、過去の繊細で気まぐれだった姿はない。パワフルでグラマラスなオトナの色香が漂っていた。

「来年も走ってくれないか」

そう思えた変身を、日本随一の調教師も当然感じ取っていたのだろう。現役続行だ。

春、桜舞い散る頃。あの時と同じ舞台、同じパートナーと、小雨滴る馬場を疾駆した。先団から出走メンバー中3位の末脚で鋭く伸びて2着。見所十分の、力漲る走り。どうやら、今度は本物か。

迎えた本番、第1回ヴィクトリアマイル。引き当てたのは1枠1番だった。どこか第1回に1枠1番。なんとなく運命的な響きを感じるのは気のせいか。

それにしても、よくよく彼女は雨に好かれるようだ。金曜日の夜から落ち始めた水滴は、土曜日を日がな一日打ち付けた。まだ青々と生い茂る緑の絨毯は徐々に水分を含み、その上を駿馬達の蹄が叩く。時計はさほど落ちているようには見えないが、数人の調教師が荒れゆく馬場を案じていた。ただでさえ、彼女の管理者は「東京コースの内は荒れやすいから、いくら先行するとはいえ、なるべく最内枠は避けたかった」と渋い表情を浮かべていたのだ。見た目にもはっきりと分かるようになった内の「染まり具合」が、不安を駆り立てる。

当日。雨は既に止み、曇り空には時折青色が覗いた。パドックには降雨の中での観戦を免れたことに安堵する群集が大勢を成し、彼女は悠々とそれを睥睨し闊歩する。圧倒的な人気を背負うラインクラフトが忙(せわ)しなく大地を踏み鳴らしているのに対して、素人目にも、そしてプロの目にも、彼女のデキは素晴らしく見えた。もう1頭のライバル、エアメサイアも軽やかな足取りで2人引きの周回を続けていた。こちらの雰囲気も良く見える。

初回にしては幾分物足りない、厚みに欠けたファンファーレが鳴り響き、18頭が初代女王という「永遠なる記憶」へ向かいスタートを切った。パドックの有様そのままに、ラインクラフトが後手を踏む。彼女はすんなりと流れに乗った。淡々としたペースの中、ラチ沿いを進みながら4、5番手でじっくりと先頭を窺う。内をすくうのか、外へ出すのか、決断の時が刻一刻と近づいていた。

なだらかで長い4コーナーを回り、直線に差し掛かる。瞬間、鞍上の北村宏司は彼女を最内にもぐり込ませた。押し上げてきたラインクラフトは馬場の中央から、大外枠からのレースを強いられたエアメサイアは外、外を回って脚を伸ばしにかかる。

突き抜けたのは彼女だった。渋る馬場などお構いなし。グングンと加速し、一気に後続を引き離す。東京が誇る長い長い直線も、何ら彼女の脚色を鈍らせるものではない。

追撃するラインクラフトは一瞬だけ伸びかける素振りを見せたが、そこから突然手応えが消失した。あっと言う間に馬群へ飲み込まれていく。ディアデラノビア、ヤマニンシュクル、アグネスラズベリなどの有力馬は既に走破圏外へと落ちた。残るはエアメサイア1頭。名手のアクションに応え、大外から一完歩ごとに差を縮めていく。

凌ぐか、交わすか――

歓声が爆発する。


あれから2年。

4で止まったままの勝ち星が、この日1つ増えた。

艱難辛苦を経て手中にしたかけがえのない勝利は、垢抜けない8年目の騎手にとってもかけがえのない宝物になった。

「馬も、人間もこれから一生懸命頑張ります」

清々しい声が、何より晴れやかだった。
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