06 | 2017/07 | 08

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ウンターハヒンク日記・1 

ウンターハヒンク日記

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開幕を3日後に控えた7月21日、約束の時がやってきた。

およそ1時間半の午後練習を見届け、監督と何人かの選手達からコメントを取ってから、クラブの事務所へと足を運ぶ。

指定された時刻までは、まだ15分ほどあった。

ひとまず、簡素なロビーにある、これまた飾り気のない椅子に腰を下ろす。

臀部に伝わる硬い質感には、もうすっかり慣れた。

正対する格好になった縦長の四角い窓から外を眺めると、監督が3人の男性と立ち話をしている。

一見してアジア系の顔立ちだと判ったが、よく取材に来るようになった日本人のライターではない。

ただ、コミュニケーションのスムーズさからすると、日本人には違いないようだ。

これといった観光資源のないウンターハヒンクを訪れる日本人など滅多にいなかったが、ミュンヘンから近い距離にあるため、監督の就任以降はポツリポツリと目に付く。

ちょうど、日本では夏休みの時期。宇佐美が加入したバイエルンをチェックし、ついでにウンターハヒンクも見ておこうという熱心なフットボールマニアがいるのだろう。

この地で生まれ、このクラブで育った身には、期せずして始まった“地域振興”が心地良い。

眼前の光景は、その象徴的な一幕だ。

自然と口元と頬が緩むが、待ち人がいよいよこちらへ向かってきているのに気付き、慌ててキュッと引き締める。

彼にとって就任後初となるインタビューを、自分が行うのだ。

ドイツメディアからも、日本メディアからもインタビュー依頼が殺到する中、自分に“第一弾”は許された。

改めて責任感が湧き出し、瞬間的に体温が高まる。掌の湿り気には、とっくに気付いていた。

待ち人が視界から消える。ここからは見えない、事務所の入口に差し掛かった証だ。

その時、入口に通じる通路とは逆方向の通路からも男が現れた。

線画のように整った顔立ちと肩の下まで垂らした金髪、そして天井に頭が付きそうな長身は、否が応にも目に付く。

男は真っ直ぐに入口方面へと進んでいくが、どうやらこちらの視線に気付いたようだ。

足を止めずに「よう、来たか。宜しくな」と言って、左手を挙げた。

自分は右手を挙げ、「おう」とだけ背中に投げかける。素っ気ない、傍からは冷淡にすら映る遣り取りだが、“2人”にとっては自然体だ。

お互い、ベタベタした関係は好まない。必要な時に、必要なコトを自然とし合える、そんな距離感を保っている。

ただ、今回ばかりはヤツに感謝しなければならない。

宣伝効果の大きいメディアを袖にしてまで、しがないフリーライターとの約束を守ってくれたのだ。

「約束だけは決して破らない」

“あの時”に交わした誓詞は、年齢も立場も大きく変わった今なお、2人の中で絶対的な拘束力を持つ。

そのために、折らなくても良いはずの骨を折ったであろうことは想像に難しくない。

面と向かって礼は言えないが、このインタビューの原稿料が支払われたら、一晩おごるくらいはするつもりでいる。それくらいの価値があった。

ヤツが通り過ぎてから数分が経っただろうか。2種類の声が、近付いてきた。

1つは、数分前に聞いた声だ。もう1つも、今では馴染みの声だ。やや低いが、明瞭でよく通る。

若年監督の高い知性に、よく合っていた。

逸る気持ちを抑えきれず、硬い接地面から臀部を解放して立ち上がると、通路へと歩き出す。

タイミング的に2人を待ち構える格好になった自分は、一直線に2人の元へ向かい、「初めまして、監督。私はフリーライターのクリスティアン・シュヴァルツと申します。本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございます」と、仕事用の明るいトーンで話しかけ、握手を求めた。

彼も笑顔で右手を差し出しつつ「Ich bin erfreut, Ihre Bekanntschaft zu machen」と言葉を紡ぎ始めたが、突然、「いや、貴方には『はじめまして』でいいのかな」と日本語に切り替えて、ガッシリと手を握る。

咄嗟の出来事に二の句を告げずにいる自分に、彼は満面で“してやったり”を主張しながら、まるで悪戯っ子のように「就任会見の質疑応答で日本語を使っていたでしょ?ちゃんと覚えているよ。何なら、今日は日本語だけのインタビューでもいい。広報の彼はとても退屈だろうけどね」と言ってウインクする。

完全にやられた―。

開始早々に失点した気分だ。彼の機知に感心する一方で、このままでは相手のペースでインタビューも進行しかねないとの危惧もよぎる。

何か反撃の手はないか―。

脳をフル回転させて、カウンターの道筋を探る。

こんな時にピッタリの日本語があったはず・・・。

そうだ、これだ。

「監督、私を覚えていたんですね。“一本”取られましたよ」

確か柔道に由来するはずの比喩を使って応戦する。

「おいおい、そんな言葉まで知っているのかよ。こいつは驚いた」

どうやら奇襲は成功したらしい。彼は目を丸くしている。

日本語が分からず一人蚊帳の外に置かれていたヤツが、慌てて割り込んできたのは、そのタイミングでだった。

「はいはい、2人で勝手に盛り上がらないの。ちゃんと応接室に行ってから、ドイツ語で会話してねー」

「おっと、悪い悪い。広報様を放置して、勝手にあることないこと言っちまったら、お互い後で大目玉だもんな。じゃあ、そろそろ行くか」

悪いと言いながら全く悪びれる様子のない監督が、軽口とともに応接室へと向きを変える。

会見時の理知的で落ち着いた態度とは打って変わり、空を掴むように飄々としている。

一筋縄ではいかない人物のようだ。

ただ、それが良い意味で心に引っ掛かる。言葉のキャッチボールの一球一球に高揚させられる。

有能か無能か。これは新シーズンの号砲を聞くまでは判断できない。

しかし、良いも悪いも刺激的なシーズンにはなりそうだ。

そう確信しながら、最初の質問をぶつけた。


■クラブは経営難で、ご自身の希望による補強は最小限にとどまりました。

現代のフットボールクラブには、安定的な経営が求められる。それを監督は理解しなければならない。

特に、このクラブは再建中の立場にある。もちろん、「こうしていきたい」というプランはあるが、タイミングを見計らって実行に移したい。

タイミングというのは、必要な資金を捻出できた時、と表してもいいだろう。

ただ、ここで初めて明かすが、6月28日にクラブが発表したレバークーゼンとの提携は、私が就任直後に希望した、いわゆる「親クラブ」の擁立を、経営陣が叶えてくれたものだ。

レバークーゼンからは資金と選手が提供される。子クラブとして、その関係を有効活用するのも、補強に繋がると思っている。

■その一例が、da Costaの獲得ですね。

その通り。レバークーゼンとの結び付きがなければ、彼を迎え入れられたかどうか。レバークーゼンは若手の補強に熱心だし、他のクラブへのローン移籍で経験を積ませて戻すというサイクルにも意欲的だ。そのサイクルに我々が入り、ウイン=ウインの関係になれたらと思っている。

■トライアウトを経て獲得したBloudekについてはいかがですか。

選手層が薄い我々にとっては、中盤の中央と左でプレーできる彼のユーティリティ性は貴重だ。特に攻撃力には期待しているよ。

■就任後、WinklerDrumなど多くの若手をトップチームに抜擢したのも印象的です。

前提として、3部リーグには「先発とベンチの18人のうち4人以上を23歳以下のドイツ国籍選手にしなければならない」というルールがある。選手層の底上げを急がなければならなかった。

ただ、そもそも私は若いプレイヤーが成長していく過程が好きだ。才能豊かな若手が、より上のレベルに辿り着けるよう、できる限り手助けしていきたい。

とはいえ、育成のために何かを犠牲にするつもりはないよ。試合で通用するレベルでないのに起用するなど馬鹿げている。若手は、まず練習で結果を出して周囲に力を納得させなければならない。

君が名前を挙げたWinklerやDrumも、練習で自らの価値を証明した。だからこそ、チャンスを与えたのだ。そこは強調しておきたい。

■さて、プレシーズンマッチの結果を振り返って下さい。6試合を戦い4勝1分1敗でした。

格上のローダJCには完敗だったが、他の試合はそれなりに満足している。特に、主導権を握って試合を進め、攻撃陣が点を取れているのは大きい。

敗れたローダJC戦も、ボールポゼッションでは上回っていた。一方で、枠内シュートは我々が1本だったのに対し、ローダJCは6本。フィニッシュの質も含めて、どう相手のゴールに迫るかは、もっと突き詰めていかなければならない。

■6試合で14得点8失点。記者会見で宣言した「攻撃的なフットボール」を体現していますね。

失点を気にしないと言った覚えはないんだがね(苦笑)。

良い攻撃は良い守備から生まれる。開幕までに、もう少し守備力を改善しなければならない。個々の力が足りないとは思わないが、連携には課題がある。一朝一夕では解決できないだけに、地道に取り組んでいきたい。

攻撃は、Tunjicが4得点、Prokophが3得点、Niederlechnerが2得点と、FWが点を取れているのは良い兆候だ。ただ、ミドルシュートやドリブルでの得点が多く、組織的な崩しは少ない。

また、勝てたのはスイスのセミプロ、クロアチアの2部、ベルギーのアマチュア、ベルギーのセミプロで、エールディビジのローダJCには完敗。フランス2部のラヴァロワには引き分けだった。6試合で14得点を額面通りには評価できないよ。

■随分と慎重な見方ですね。次に布陣についてですが、中盤の底にアンカー役を置いた4-4-2をメインに使用していますね。

選手の個性と、プレーのしやすさを考えた時に、現状ではこの形が良いと判断した。トップ下よりも、中盤の深い位置でボールを奪い、パスを捌く資質に長けた選手が多いからね。

攻撃を始める位置はやや低めになるが、守備の安定は見込める。2トップやサイドアタッカーに攻撃力がある分、中央の2人はバランスをコントロールしてもらいたいんだ。

■これも話題を集めましたが、ピッチサイズを規定のぎりぎりまで縮めた理由を教えて下さい。

私は、積極的にプレスを仕掛けてボールを奪い、素早く繋いで効果的にゴールを目指すスタイルを志向している。そのために、ピッチサイズも変えてもらった。賛否両論はあるだろうが、チームの力を出し切るためには、ルールを最大限に利用する。

「Sky Bet」の発表によれば、ウンターハヒンクは34倍で「中位」を予想されています。

私の好きな競馬に当てはめると、ビーレフェルトが本命、オスナブリュックが対抗、オーバーハウゼンが3番手、穴はヴェーエンとエアフルト、我々は連下といったところか。

もっとも、各クラブにそれほどの差はないと見ている。タレント力も、層の厚さも。我々にもチャンスはある。そう分析しているよ。

■開幕戦に臨むメンバーは決まりましたか。

ほぼ決まっているが、全て明かすのもつまらないだろ?しかし、せっかくの初の単独インタビューだ。キミに“お土産”を持たせてあげよう。GKはRiederer、ディフェンスラインは右からSchwabl、da Costa、HummelsStegmayer、2トップはProkophとTunjic。この7人は確実としておこう。怪我などの不測の事態が起きない限りね。

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このような布陣が予想される

■お気づかい、ありがとうございます。監督は、記者のモチベーションを高める技も持っているのですね(笑)。では、対戦相手のブルクハウゼンについては。

きちんと研究しているよ。ここで何かを言ってしまうと裏を欠かれてしまうが、Mokhtariはテクニックに優れた好プレイヤーだ。チームを引っ張るメンタリティもある。

■最後に、初戦に向けた意気込みを。

ただでさえ平常心が失われる開幕戦を、アウェイで戦うのは難しいが、良いスタートを切りたいね。

■ありがとうございました。


どの問いかけにも澱みなく、よく練られたメロディのような滑らかさで、彼は返答する。

約1時間のインタビューは、さながら彼の演奏会だった。

スタッカート、フェルマータ。時に歯切れよく、時に余韻たっぷりに、言葉を奏でる。

それでいて、無駄がない。

彼のタクトに導かれた選手達が、ピッチ上でどんな音色を響かせるのだろうか―。


次回へ続く

---------- キリトリ -----------

<編集後記>

長いw

そして、FM色が薄過ぎる(苦笑)。

これを続けていくと、あまりにも「自己満足の世界」になっていくので、次回は軌道修正します。もう少し画像を工夫しながら使って、見栄えがするように。

あとは更新頻度を上げたい。恐らく、1シーズンを開幕編→ウインターブレイク編→終盤編→結末&まとめ編→シーズンオフ編の5回で収める形になると思います。

ユーロ2012が開幕するため、次回をいつ公開できるのかは未定ですが、なるべく早く次回の公開を目指します。ゲーム内で、久々に飛び上がるような好ゲームを体験できましたしね(ややネタバレ)。

それから本編の補足です。

Hummelsは、ドルトムントのMatsの弟。ウンターハヒンクにいるとは知りませんでした。狙ったわけではありませんよ。
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コメント

Re: ウンターハヒンク日記・1

待っていました、面白い切り口のFM日記。次回も期待してます。
Da Costaは良いレンタルですね。それに良い提携クラブがあると思い入れが増すというか「結びつき」って重要な要素だと思うし。
しかしこの戦力はちょっと厳しくありませんか?特にメンタル面で頼りにならなさそうな気が。その辺りは監督のさじ加減ひとつでなんとかなるかもしれませんが、私なら荷造りしてるんじゃないかなww

Re: ウンターハヒンク日記・1

大変ご無沙汰しておりますm(_ _)m

ついに始まりましたね!インタビュアー視点という新しい書き方でのプレイ日記ですがこれは書くのに骨が折れそうですね(;・∀・) 
Da Costaはボーフムかなんかのとき獲得しようとしてた選手だったのを思い出しました。2011では結構有望なようでしたが2012ではどうなんでしょうか?

次回も楽しみに待たせていただきます!

Re: ウンターハヒンク日記・1

お久しぶりです。
そしてFM2012新日記、待ってました!

ドイツの成り上がりプレイで、日記のスタイルもいつもとは違う感じで楽しみにしています~。

大変、遅くなりました

>ペンギン様

Da Costaの補強は大きいです。もう第2回が公開されたので補足的に書きますが、かなり活躍してくれています。3部だと、やはりフィジカルで押し切れてしまいますからね。

戦力的には厳しく映るかもしれませんが、3部なので他のクラブも同程度かそれ以下です。そのため、実は楽なんですよ~。スタートダッシュさえ決められれば、案外と簡単に勝ち進められます。

大変遅くなりました

>けふぃあ様

ご無沙汰しております!

架空の記者の目線を通して、これから日記を書き進めていきます。第2回は、記者の書いた記事を基にストーリーが展開しています。その手法の是非はともかく、手間は相当にかかります(苦笑)。

Da Costaはリアルでも出番を得つつありますし、粗削りですが伸びしろはありそうです。この世界だと完全にフィジカルで突き抜けていますが、あとはメンタルの伸び次第でしょうね。

大変遅くなりました

>mukade様

ありがとうございます。かなり文字の多い、変わったスタイルですが、お気に召せば幸いです。

あとは書き進めるスピード次第ですね(苦笑

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