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01 | 2006/02 | 03

The eternal prison 

ぎぃ…という鈍い音を響かせて扉が徐々に閉じていく。随分前から開け放たれたままだったそれは、受け入れるものを失くして役目を終えた。

もう開けられることの無い事実を惜しむかのように、無音の静寂に微かな余韻を漂わせ、光を飲み込み、最後に発したキィィーという金きり音は、断末魔の叫びを思わせる悲しさと鋭さを併せ持っているようにも感じられた。

やがて、足元に転がるジャラジャラと手に余る大きな太い鎖を掬(すく)い上げ、ゆっくりと取っ手にかけて巻いていく。キュルキュルと軋(きし)む鉄の音を聞きながら、来るはずもない客の顔を思い描く。

元々、彼女のために始めたような店だ。厨房には彼女の好物ばかりが並び、椅子やテーブル、内装も好きだと言った色と形で埋められていた。

しかし、使われなくなって久しいことを訴えかけるかの如く、至るところに埃や塵が堆積し、薄汚れた厨房はもはやネズミか茶羽の嫌われ者の寝床になっているだろう。

待つべき者も待つ者も存在しない、文字通り廃墟となった夢の跡を、彼がようやく片付ける気になったのは何故だったか。ずっと、「いつか」を糧に前を見ていた彼を立ち止まらせ、気付かせ、振り返らせたものは何だったか。

何より彼すらも深く理解しえていないそれは、恐らくは薄々と心が認めかけていた手応えの無さと絶望的な距離感に相違ないだろう。

触れられるほど近くて、されど届かせられない──そんな、見えているのに埋まることのない微妙な空隙を知覚するたび、彼の心はいつも虚脱感で揺り動かされ、鋭く痛むささくれを生んだ。

「ほんの小さな、みみっちぃ僻(ひが)み根性なのかもしれない」そう思ったりもしたが、沈みゆく気持ちはどうしても抑えきれず、やがて不快感は見るも露わになり、やがて投げかけられるであろう「慰め」を待ち望んでは小難しい態度を取る。

その幼稚さと卑屈さに、彼女はいつだって「見透かしてるんだぞ」とでも言いたげな視線を込めて、それでも幾分皮肉の混じった期待通りの言葉を返してくれた。

こうして振り出しに戻る彼と彼女の関係。何も進ま無い、堂々巡りの茶番劇。

演じるのも、演じられる方も一苦労の退屈で見え透いたこの劇も、終わりにするには踏ん切りがつく「何か」が欲しかった。それなしで逡巡を断ち切れるほどに彼が強くなかったこともあるが、どこか、待ち望むことを許され、求められているような気分にさせる素振りや言葉が在って、その度に彼はまた思い直すことを始めていた。

しかし、いつかは長い夢も覚める。現実はかくもはっきりと、冷たく横たわっている。どんなに必死で否定しようとも、結果だけが全てを表している。

彼の待つ店に、彼女が最後に訪れた冬の寒い日。あれから季節はゆっくりと歩を進め、雪花から梅花の季節へと装いを改め始めた。春は、だいぶ近い…。


最後まで、キツく力を込めて鎖を絡め封をする。雁字搦(がんじがら)めになった取っ手に再び手を添えて、グイッと引っ張ってみる。手のひらに一気に伝わるガチっとした衝撃を、彼は十分にいなして固さを確かめ、安心したような表情で頷きながら、元の場所へゆっくり押し戻した。

完全に閉じられた扉に背を向けて、やがて彼はそろそろと歩き出す。一度も振り返ることなく遠ざかる姿を、もう開くことのない店が静かに見守っていた──
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